講演録「Q&A」

 

Q&A

登壇者 菊池 真理子さん漫画家

打越 さく良さん(弁護士)

津曲 博久さん警視庁ストーカー対策室規制第一係長 警部

西山 さつきさん(特定非営利活動法人レジリエンス 代表)

 

質問1 【ミニ講座2】保護命令の関係で質問です。接近禁止の期間は当然何もない状況で、期間が切れてもう一回保護命令を申し立てても、なかなか東京地裁では認められないと思うのですが、どういう場合に、どういう疎明資料(証拠)で通せばよいでしょうか。

私は弁護士で、実際の事案として、加害男性が電話で「もう期間が切れたから近づいていいんだよな」と言ってきたので、再度申立てをしたが、東京地裁に「彼に通知されて却下されるよりは、取り下げたほうがいいんじゃないですか」と言われて取り下げたことがあります。2度目の保護命令について認められる率、あるいはネグレクトされた場合はどうしたらいいでしょうか。

○打越 再度の申立ては、少なくとも東京地裁では割と厳しい運用かなと思います。発令後に何かすると“保護命令違反”ですから、保護命令期間中は何もないことのほうが当たり前です。その件は「発令期間が過ぎたら近づいていいんだよな」と言っているという、まさにその恐れがあると言っていい珍しい事案だと思いますが、それでも取り下げを進められるというのは、なかなか深刻な事態ですね。

私が担当した他県の事案では、再度の申立て事案ではないのですが、裁判官から「退去命令を取り下げろ」と言われたけれど取り下げなかったら、発令してくれたことがありました。

何か妙に委縮させるようなことをしているという運用があるかもしれず、それは可視化して問題にしたほうがいいのかなという気もします。例えば、東京地裁と大阪地裁だと発令件数が大分違うんですよね。厳密な検証は厳しいですが、率直に運用が裁判所によって違うのではないかと思わざるを得ないところもあるので、弁護士たちが頑張って何か問題提起をしていかなければならない気持ちもします。もちろん、依頼者に迷惑がかからないように事案として抽象化する必要があるでしょうが。

●質問2 昔はカミナリ親父がいて、妻がほとんど抵抗できなかったという話はよく聞きましたが、DVという話は余り聞いたことがありませんでした。DVの解決方法は別居や離婚しかないのでしょうか。また、DV加害者は、異常なのか、病気なのか、別れれば治るのか、医者で治療しなければ治らないのか、最近そういう人が非常に増えているのか、教えてください。

○西山 昔からよく起きていることだったと思います。名前がついていなかったものに名前がついて、法律が現実に追いついてきたのかなと思います。

解決方法は、人によって違うし、その時々で違うかもしれません。別れる、別れないという選択肢の間に、非常に幅の広いグラデーションがあります。例えば、別居する、本当に危ないときには警察に相談してどこかに泊まる、結婚している相手なら夏休みだけ子供を連れてとりあえず別居をしてみるなど。その中で、どれが自分にとって今のベストかを見つけるためには、相談につながることも1つの方法です。

そして、情報を得ることは非常に大事なことです。医療を受ける場合、どのような病気で、どのような治療法があって、どのような効果があって、副作用が何など、様々な情報を得た上で方針を決めますよね。それと同じように、DVとは何か、どのような影響があるのか、この先々どうなっていくのかなど、情報提供を受け、心配や不安を相談できる相手がいることでより良い選択肢が見えてくるのかなと思います。

○菊池 解決方法で思い出しましたが、諸外国には、加害者が受講するプログラムがあるそうです。日本にもあるけれど民間団体任せで、法的に決まったシステムはないそうなので、法律家や政治家が協働して、プログラムの整備をしていただきたいなと思っています。

○西山 加害者更生プログラムというものですね。アメリカだとDV加害者はすぐに逮捕されます。それで、捕まったら「刑務所に入る」か「加害者更生プログラムに通う」かという二択を迫られます。日本にも加害者更生プログラムを実施している団体がありますので、今後そうした動きが膨らんでいくといいなと思います。

また、暴力は遺伝でも連鎖でもありません。ただ、“学び”なんです。だから、デートDV予防教育などを通じて、若いうちに、効果的に、加害者性の芽を摘み、非暴力が大事だということを社会に広めていけたらなと思っています。

 

●質問3 別れようとしたときにはストーカー行為やDV行為が非常に加速して、より危険な状況に陥るとよく聞きますが、安全に別れるために心がけておきたいことを教えてください。

○津曲 別れるときには、“その気配もにおいもしないような状況”に置くのが一番いいです。携帯電話も住所も仕事先も何もかも全部変えることが一番安全な方法だと思います。でも、それはできないですよね。携帯電話は変えられても、仕事はなかなか変えられません。住居は友達のところに秘匿避難できるかもしれないですが。

それができないのであれば、何か危険な兆候、メールやLINEなどがあったらすぐ警察に相談してください。警察の会議室などをお貸しして、警察官が別れ話に立ち会います。そこで、「今後こういうことをしたらストーカーになる」という話をし、それ以後、何かの兆しがあったらストーカー規制法で取り締まり、逮捕とはいかないまでも、書面警告(行政手続)を行います。これは本人に対して可罰性はありません。

書面警告に従わない場合には禁止命令が発令されます。これには可罰性があり、次にストーカー行為をやったら反則金や懲役が倍になるという行政処分です。

ですから、別れた後に少しでも危険な兆候があれば警察に相談してください。何らかの対応はします。それによって、80%ぐらいは加害をやめます。

○東京都 加害者は、ひとたび別れ話となると、土下座して謝ったり、ひどく泣きついたり、情に訴える行為を重ねることで、意識的に被害者の精神状態を混乱させ、判断力を鈍らせたりする状況を作ります。それに対して、被害者が冷静に対応することは極めて難しいものです。相談員は加害者の次のアクションを予測して「相手がこういうことを言ってきたらあなたはこういう気持ちになるかもね」というように、被害者自身に“先のイメージ”を持ってもらうことを手助けしたりします。相談の中でそうしたやり取りを何回も繰り返していくことで、被害者自身がDVに気づき、最終的には加害者による心の支配から解き放たれて、自分で物事の判断ができるようになることが理想だと思っています。ですから、被害にあった人が自分で考え始めるというところを相談員がお手伝いすることで、警察や弁護士と、心理的なケア(心理教育)の3本柱が整って、その人にとって一番できそうな安全な対策を考えられるのではないかと思っています。

○西山 別れるときは本当にハイリスクで、相手の暴力がひどくなることがあります。また、被害者の感情も激しく揺さぶられますので、一人で考え込まずに多方面と連携して、万全な体制で別れることに臨んでほしいと思います。

 

 

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