講演録「パネルディスカッション」

パネルディスカッション】「DVかも?と思ったときにできること。

いろんな専門家に聞いてみよう

パネリスト 菊池 真理子さん漫画家

打越 さく良さん(弁護士)

津曲 博久さん警視庁ストーカー対策室規制第一係長 警部

コーディネーター 西山 さつきさん(特定非営利活動法人レジリエンス 代表)

 

パネリスト自己紹介

打越さん(以下、敬称略) (東京ウィメンズプラザHP参照)

菊池さん(以下、敬称略) (東京ウィメンズプラザHP参照

○津曲さん(以下、敬称略) ストーカー規制法ができた平成12年からストーカー事件の捜査に携わっていて、現在はストーカーの法令指導と、DVの保護命令が出た際に対応の指揮をしています。

昨年の統計はまだ出ていませんが、一昨年のストーカーの新規相談件数は年間2,426件、DVが8,421件で、DVの相談のほうが多いです。新規だけで1日に23件の相談を警視庁管内で受理しています。また、暴行、夫婦内の暴力などの検挙者が771名、1日に2人が逮捕もしくは書類送致されています。

 

菊池さんの経験談

○菊池 彼の第一印象は“すてきな人だな”だったのは事実ですが、彼のほうが積極的で、最初から「つき合うということは結婚するんだろうな」とすごく飛躍したことを言っていました。出会ってすぐに熱烈な愛情をアピールすることは、もしかしたらDVをしがちな人の一つの特徴なのかなと思うのですが、当時の私は“この人に愛されている”と勘違いをしてしまいました。出会ったばかりのデートでジンを1瓶カラにして、その空瓶を公園で蹴飛ばしたんです。 “この人はやばいな”と思ったのですが、有無を言わせず“つき合うこと”に巻き込まれていくという感じでした。

つき合い始めると、彼はものすごい電話魔でした。これも、DVをする人の“あるある”なのかなと思うのですが、自由時間を与えられない感じでした。夜中でもかまわず電話がかかってくる。電話をとらないと怒られるので、電話をとらないという選択肢はないんです。話すことがなくなると、ずっと音楽を聞かされるなど、わけのわからない時間を過ごすこともありました。



さらに、容姿をけなされたり、汚いとか、くさいとか言われたりしました。私だけではなく、私の周りのもの全てを否定されました。

このときが、多分最初に殴られたときですね。私の持ち物に対して、「これはどこで買ったの?」と聞かれて、私が「忘れた」と言うと、「男に買ってもらったんだろう」と言って殴られました。「何で酒も飲んでいないのに忘れるの」「何でおまえはそんなにばかなんだ」と言われて殴られるんです。彼は、私がうそをついていると思っているようでした。

また、彼は異常な嫉妬心を持っていました。例えば、私と彼と彼の友達がいて、彼がトイレに行くと、私と彼の友達が2人きりだといって、嫉妬して殴るんです。でも、彼の友達もそれを止めないんです。

公衆の面前で傘で殴られたときも、誰も止めに入ってくれませんでした。かかわったらやばい人だと思うのか、みんな目を合わさずに逃げていくという感じでした。

そして、彼が最初から最後まで怒り続けたのが、私が処女じゃなかったということでした。自分のものなのに裏切られたと思うのか、嫉妬だけではなくて自分の思いどおりにならないことにすごくいらついていた感じです。

「この程度のことで我を忘れて怒るなんて、私はそんなに愛されているのか」と思うと同時に、「この人はかわいそうな人だな」と思いました。だから、こんな繊細な彼のことをわかってあげられるのは私しかいないと、殴られながら思っていました。

でも、彼はそのうち(もしかしたら最初からだったかもしれませんが)、怒っていなくても殴るようになってきました。彼の支配の手段だったんでしょうね。そして、私はどんどん疲弊して、混乱していくという状態でした。




ある時、「妹に、夜道に気をつけろと言っておきな」と言われました。自分に危害が加えられることにはずっと我慢し続けていたので麻痺していましたが、このときは「妹に何かされたらどうしよう」と心底心配になりました。結婚話が出ていましたが、さすがに「まずいな」と考えるきっかけになった出来事でした。

二人の関係はすごく閉じた関係で、私は彼にされていることを誰にも言えませんでした。今の自分の状況を誰かに説明するときに、どうやって説明したら良いのかもわからないし、誰に言っていいかもわからない。当時、周囲には二人の関係をノロケながら、心の中では「こいつを絶対に振ってやる」と思っていて、精神的にすごく混乱した状態でした。

最近になって、この話を人にすると、「なぜ別れなかったの」とか、「私は絶対そういう男にはひっかからない」とか、「よく頑張ったね」という同情と同時に「私はそういう男は絶対無理」とか言われます。そうした言葉を聞いていると、暴力をふるわれる“原因”ではないけれど、“要因”は私にあったんだなと思って、傷ついていました。さらに、自分を癒やさないまま、「彼にも事情があったんだろうな」と同情してしまい、自分を悪者のように感じて、波風の中を心が泳いでいた感じでした。しかし、最近レジリエンスの『傷ついたあなたへ』という本を読んで、自分に要因はなかったということがようやくわかりました。私は当時、ずっと知識を拒んでいました。知識を付けることも、人の話に耳を貸すことも、相談することもありませんでした。だから、この場に来ていらっしゃる方は本当にすばらしいと思います。是非、ここで得た知識をもっと広めていってほしいと思っています。

○西山 閉ざされた環境ということは、デートDVもDVも同じですね。暴力の話は人に言いにくいですよね。

○菊池 それに、友達が暴力を受けているのを見たときは「何てひどい男だ。そんな男はやめろ」と思ったのに、いざ自分が暴力を受ける立場になると、肉体的な痛みは時間が経つと消えるので「耐えられる」と思っていました。問題を矮小化したり、自分の中から言いわけが生まれてきたりしました。

○西山 矮小化はありますね。この問題を直視すると自分の中で何かが壊れそうだったら、「大したことはない」「優しいときもある」と考えて、この関係を続けたいと思いますよね。でも、つらいながらも直面化して、本当の意味でサポートを得られたら、何かが始まるということもあるのかなと思います。DVの関係では色々な感情が湧いてきます。情報が無い中、そこにとどまろうとすると、まるで自分がグルグル回る洗濯機の中で生活しているような複雑な状況になりますが、ひとたび情報を得たり、一緒に考えてくれる人がいると、その状況が変わっていくことはあると思います。

また、菊池さんの話にあった、出会ってすぐにつき合おうとか、つき合ってすぐに結婚しようと言うことは、『DVあるある』なんですね。そうすることで相手を自分の近くに置くことができ、支配しやすくなるという構造があるのです。

でも、その言葉がけはちょっとロマンティックだし、恋愛で盛り上がっていると言葉の裏にある構造は見えないので、中学や高校でデートDV予防教育をして早い時期に知識をつけておくことは、すごく大事だと思っています。

 

警察への相談

○西山 「妹に、夜道に気をつけろと言っておきな」という脅しの言葉は、実際の加害がなかったとしても、その人の生活にはすごく影響しますよね。この言葉は、相手に危害を及ぼす言動にあたりますか。

○津曲 状況にもよりますが、前後の関係でどれだけ怖い思いをしたかという状況を話していただければ、事件化できることはあると思います。また、事件化できるかどうかはともかく、警察では何らかの対応はとるようにしています。

○西山 先程、「矮小化」という言葉が出ましたが、DVでもストーカーでも「大したことはないんじゃないか」「このくらいで警察に行っては悪いんじゃないか」と、警察は敷居が高くて躊躇しがちですが、「DVかな?」「脅しかな?」「ストーカーかな?」と思ったら早めに警察に相談に行くことも可能なわけですね。

○津曲 警察に相談に来るタイミングは、その「かな?」で全く問題ありません。自分が相談したいと思ったとき、友達に相談したら「DVでは?」と言われたとき、すぐ来ていただければ、話をじっくり聞いて対応します。早目のほうがいいですね。警察はそんなに敷居が高いところではないです。買い物に行く途中に交番があったので、「そういえばこの間、脅迫的なことを言われたのですが」などと相談に来られる方もいらっしゃいます。

○西山 どの部署に相談に行くのが一番いいですか。また、用意するものを教えてください。

○津曲 交番でも構いませんが、交番は一時的な対応ですので、最終的には警察署の生活安全課で相談していただくことになります。持ち物は特にはありませんが、できれば脅迫の証拠となるメールやLINEの履歴を持ってきていただければ助かります。また、暴力を振るわれた時のアザ等があれば、女性警察官が写真を撮ったりして、事件化できるところは事件化します。

○西山 誰かに付き添ってもらうとか、周りの人だけが相談に行くことは可能でしょうか。

○津曲 可能です。現在、全国に人身安全関連事案事態対処チームというものがあります。例えば「DVの相談があったので、そちらの県で本人の話を聞いてもらえませんか」など、各県の設置機関と連携し、相互に調整を行なう体制が構築されています。

 

弁護士への相談

○打越 離婚、慰謝料の請求、保護命令の申立てなど明確に法的な手続をしたいと決意してからではなく、つらいときや、仮に離婚と思った時は、どういう手続があるのかという基本的な知識を得ることを目的でも構いません。法律相談を受けたからといって、すぐ決意して、調停、申立てをしなければならないということではないので、気軽に相談に来てください。とは言うものの、弁護士の立場からいうと、交際や結婚、不動産の購入、子供の誕生の時期などを時系列に書いたものや、直近の何回かの暴力の状況、証拠となる診断書などを整理して持って来てくださると、話は早いです。ただ、混乱したり、悩んだりしている方に、「それを全部用意してから来てくださいね」「できれば預金通帳や不動産の登記簿謄本などもコピーして来てくださいね」となると、とても大変でおっくうになると思いますので、とりあえず手ぶらでも気軽にいかれていいと思います。

この業界も色々な弁護士がいて、「時系列でちゃんと話してくれないとわかりにくい」と言う人にあたってしまうこともあるでしょうが、それにめげないで、相談者の置かれた状況やDVについてわかってくれる弁護士に出会うまで、違う相談先をあたっていただくと良いと思います。

○西山 DVに遭っていると、考えがまとまらない、混乱してしまうということがあります。

○菊池 そうなんです。誰に相談したら良いか、何を相談したら良いかもわからなくて、弁護士や警察に行くという発想もできなかったですね。周りにDVやストーカーの知識がある友達がいたら本当にありがたいですが、そうでなくても、【ミニ講座1】に出てきた、ずっと声をかけ続けてくれたおばあさんのような、本当に良い方が増えたら良いなと思います。

 

東京ウィメンズプラザの相談事業

○東京都 DV被害にあわれた方については、混乱されていて何から話して良いのかわからない、自分が今どういう状況にいるか説明するのが難しい、本当にそのとおりだと思います。東京ウィメンズプラザの一般相談では、まず問題の整理をして、必要なところにつなぐことができます。DVは自分で何かを選択する、自分について考える、自分で決める、そういうことを奪われる暴力でもありますので、相談の中で御本人がどう考え、どうしたいかを尊重しながら相談を行っています。法律相談は1回限りで、公的機関なので弁護士の紹介はしていません。お話を十分に伺って、問題を整理して、資金の乏しい方の場合は法テラスを御案内したり、資金に余裕がある方はまた別のところでというように、実際に法律相談を受ける代理人を決める前の御相談と考えていただいても良いかと思います。

ほかに特別相談として、精神科医や児童精神科医の面接も原則1回限りで行っています。専門家がお話をしっかり聞いて、治療が必要な方を医療につなぐこともできますので、最初の入り口として御利用いただければありがたいです。男性のための悩み相談も週2回行っています。

○西山 とりあえず話を聞いてもらいたいということで電話しても大丈夫ですか。

○東京都 もちろんです。電話相談をして、電話だと落ち着かないとか、相手が発信履歴を見るかもしれないという不安があって、相談員と会って安全な場所で相談したいという場合は、事前に予約していただいて面接相談もできます。デートDVも含め、あらゆる暴力についての相談をお受けしています。

原則、匿名でお受けしています。一応、東京在住、在勤、在学という資格はお尋ねしますが、DV、デートDV、性暴力など、いわゆる暴力の被害に遭っている方は全国どこからおかけいただいても、一旦はお受けして、地域につなげています。

○西山 ほかの県や市区町村などでも同様のサービスはありますか。

○東京都 全国に配偶者暴力相談支援センターは設置されています。自治体によって体制に差はあると思いますが、徐々に整いつつあります。地域では相談しにくいので遠くに相談するという方もいらっしゃいますので、東京都以外の方もまずはお受けしています。

 

警察の支援

○津曲 相談の時に、110番緊急通報登録システム(通称 S登録)の申し出をすると、名前、電話番号、住所が登録されます。その人が110番すると、電話番号をキーにして名前と住所がわかるようになっています。そのため、途中で電話が切れても、「もしかしたらDVではないか」ということで、住所に急行できるシステムになっています。ストーカー、DVに限らず、男女間トラブルやストーカーに至らない事案についても、この登録をすることができます。

また、警察では、事件を認知した以上、事件捜査を行うことになっていますので、実際に顔が腫れあがっているのに被害届を出したくないという方が結構いらっしゃるのですが、被害届無しでの逮捕というケースもあります。

さらに、逮捕に至らないまでも相手方に警告したり、今日は家に帰ると危険な状況だが外泊するお金がないという場合には、1人上限1万1000円の補助金を出す制度もあります。子供同伴の場合は増額支給になります。警視庁指定のホテルに限られますが、そこで一時避難もできます。被害にあって相手と一緒に住むことができないとなった場合には、7万円を上限に都で転居費用の援助を行っています。条件は、生活に困窮している、引っ越し先が決まっている、現在住んでいられない事情にあるなどです。

○西山 では、「ひどい暴力を受けたけど、お金がないから」と我慢せずに、警察に相談したら、今のお話のようなサポートを得られるかもしれないということですね。そういうことを知らないとなかなか支援にたどり着けないですし、混乱していると情報を探すことも難しくなりますので、警察にそういうサポートがあることを普段から知っておくことも重要ですね。

 

面会交流

○西山 DVが原因で離婚したのに、面会交流という形で支配が続いてしまって、体や心に色々な影響が出てきてしまう人もとても多いですね。

○打越 最近は面会交流を制限、禁止するなら特段の事情(虐待やDVなど)が必要と言われています。以前は、保護命令が出ていたり、後遺症のPTSDの診断書等を出したりすれば、当然面会交流は禁止ないし制限される傾向にありました。しかし、最近は、被害者が加害者を怖いと感じていても、子が慕っている場合もあるだろうし、面会交流の送り迎えの時に会いたくないと思っている場合でも、第三者機関に料金を支払えば面会交流に付き添ってくれるのに、それでもなお面会交流をできない理由があるのかなど家庭裁判所で言われることがあります。また面会交流後に子が不登校になり、「やはり面会交流は時期尚早だったのではないか」と訴えても、「母親の監護の状況が悪いからではないか」と問われると、その因果関係を立証することは難しいのが現状です。

原則、子と離れて暮らす親が会うことは良いと思いますが、やはり個別の事情があって、父親の名前を口にするだけで壁に頭をぶつけて苦しんでいるような子を無理やり引っ張っていくようなことはどうかなと思っています。

最近の裁判所実務が「面会交流原則実施論」のもとに運用されているのではないかと懸念する人もいますが、個別事案の事情を踏まえて子にとって苛酷ならば面会交流を禁止ないし制限する事案もありますので、被害者側がしっかりと個別事情を主張することで、事案に適した判断がされるようにも思います。

もっとも、正確な理解をしていない弁護士もいて、法律相談でDV被害の状況について個別事情を踏まえようとしてくれない場合もあるかもしれません

 

DVと夫婦げんかのちがい

○西山 【ミニ講座2】でお話があった青い鳥判決(名古屋地裁岡崎支部平成3年9月20日判決判時1409号97頁)にはびっくりしました。平等、対等な関係性の夫婦げんかでは、“話し合いをしたり”、“言い返したり”という行為は悪くない選択肢です。しかし、DV下では安全でないし、関係性が平等ではないため、「話し合いなさい」「主張しなさい」というのは効果がないだけではなく、非常に危険な行為だということも知っていただきたいです。

○菊池 私の場合、反論したら必ず大げんかになったので、事実上話し合いは不可能でした。反論すると殴られるので、だんだん反論もできなくなっていきました。彼がどこでキレるのか本当にわからなくて、昨日OKだったことが今日はNGでキレられるという状態で、私自身は混乱していきました。

○西山 DVでもアルコール依存症でも同じですが、「この過酷な環境の中で何とかやっていこう」と努力したとしても、大概できません。なぜなら、そこで起きていることは「何とかやっていける」レベルをはるかに超えているからです。だからこそ、外部に助けを求め、専門知

識をもった人の支援を受けていくことが必要だと思っています。

 

まとめ

○菊池 男性でもDV被害に遭っている人が大勢いることを忘れてはいけないなと思っています。男性被害者は、女性よりもっと被害を訴えることが難しいのではないかと思います。殴られることは決して恥ずかしいことではありません。男女ともに一緒に手を取り、暴力を許さない社会を目指していきたいなと思っています。

○打越 最後に2点申し上げます。1つは加害者を過大評価して怖がりすぎることなく、警察や弁護士など専門家と連携し、解決の方策を考えてくださいということです。もう1つは、被害の話を最初に聞くことになる方々へのお願いです。被害者が勇気を出して発した言葉に、どのような反応をしたかが、その後の問題解決への道のりに大きな影響を与えます。よって、周囲の方々には、DV問題の深刻さをご理解いただいた上で、被害者が支援につながれるような一言、行動をお願いしたいと思います。

○津曲 警察はそんなにハードルが高いところではないので、気軽に相談してください。

○西山 “バイスタンダー”という言葉があります。被害者でも加害者でもない、その周りの人たちのことで、この人たちがどう知識を付けてアクションを起こすのか、いい反応をしていくのか、それが社会を変えていく鍵となると思いますので、一人一人が色々な問題の“バイスタンダー”として知識を付けて行動していただけたらと思っています。

 

「こころのCareダンス」

○西山 最後にトラウマケア、ストレスケアになる体操をして終わります。DVにあっていると、自律神経が休まらない状況が続きます。緊張が続くと、眠れなくなったり、食べられなくなったり、ほかの人間関係も上手くいかなくなったりということが、自律神経の影響によって起きてきます。その自律神経を良い状態にする体操を1日に1回行うと、少しずつ自律神経の調子が整ってきます。自律神経は体の不調や感情的なものにも影響しています。最近のセラピーは、体からアプローチするものも多いです。

(「こころのCareダンス」DVD)レジリエンスHPにリンク


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