講演録「ミニ講座②」

【ミニ講座2】 「法的知識、基本のキ

講師 打越 さく良さん(弁護士)

 

DV防止法:前文と定義

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(DV防止法)の前文には、この法律が必要とされて制定された意義がわかりやすく書いてあります。この法律ができる前は、DVは夫婦げんかのように軽く思われていたところを、「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」と明記されたことは重要です。

そして、DVを「配偶者からの暴力」というふうにジェンダーニュートラルに規定した一方で、DVは女性に対する暴力の一環として見出されてきたことも書かれています。さらに、この状況を改善することは、人権擁護と男女平等の実現を図ることにつながると言及している点も見逃せません。

定義は次のようになっています。

・「配偶者」:法律婚でも事実婚でもいいが、夫婦の一方

・「暴力」:身体的暴力、性的暴力、精神的暴力、全てを網羅的に含む

※第三章、第四章に注意

・「被害者」:(元)配偶者から(婚姻時に)暴力を受けた者

※デートDVの場合、同棲したことがある交際関係の被害者に限られる

それ以外は、刑法の傷害罪や暴行罪、ストーカー規制法、民事保全法の

仮処分などで対応

 

DV防止法:通報義務

DV防止法には、DVを受けている人を発見したら、その旨を配偶者暴力相談支援センター、または警察官に通報するよう努めなければならないという条文があります。これは努力義務なので、通報しなくてもとがめられることはありませんが、DVが人権侵害ということを踏まえると、出来れば通報していただきたいと思います。

 

●「住民票上の住所の非開示」の支援措置

被害者が申し出をすれば、加害者がその被害者の住民票を取ろうとしても、それを制限することができます。一方、加害者が面会交流の調停などの手続のため、住所を知りたいという場合には、裁判所に「住所がわからない」ということで申し立てれば、裁判所がその自治体に照会することになっています。

 

DV防止法:職務関係者による配慮

公務員、学校や保育園の先生、医師など職務上DVにかかわる人は、被害者の心身の状況などを踏まえて、被害者の人権を尊重し、安全確保や秘密保持に十分配慮して職務に当たるよう規定されています。特に大切なのは秘密保持で、被害者が避難した場所が発覚しないようにするなど細心の注意が必要です。

 

DV防止法:保護命令

DV防止法の中心的な手段として「保護命令」があります。保護命令には、有効期間が6カ月間の申立人への接近禁止命令、電話などを禁止する命令、申立人が一緒にいる子への接近禁止命令、親族等への接近禁止命令と、有効期間が2カ月間の退去命令があります。

被害者への接近禁止命令の要件は、過去の暴力、あるいは脅迫、今後その身体に対する暴力により生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときです。また、「電話等禁止命令」の要件は被害者への接近禁止命令と同じで、無言電話、連続した電話やメールなどを禁止するもので、これらはセットで発令されます。

子への接近禁止命令では、「子」は未成年で被害者と同居していることとなっています。避難するときに子を一緒に連れてこられなかった場合は、この申立てはできず、親族等への接近禁止命令をするか、「子の引渡し」という家事手続をすることになります。

また、子への接近禁止命令は、あくまでも被害者の生命、または身体に危害を加えられることを防止するためであり、子を連れ去られることの予防のためではありません。

「退去命令」は、ほぼ接近禁止命令と同じ要件です。退去命令が出たのに加害者が出て行かない場合、保護命令違反となり、警察に連絡をして逮捕してもらうことになります。

実際に、接近禁止命令と退去命令を申し立てた場合、裁判所から「警察に協力してもらって荷物だけ運び出せばいいじゃないか。訴えは取り下げたらどうか」と言われることがありますが、要件がそろっている以上、取り下げる必要はありません。

保護命令は再度の申立てができますが、退去命令だけは要件が厳しくて、「転居しようとする被害者がその責めに帰することができない事由によって2カ月以内に転居を完了できない」などの事情がなければなりません。例えば、発令期間中に病気やけががあった場合などです。実際にあった事案としては、鬱病のため期間内の引っ越しも難しく、また、グループホームの入所なども希望したが入れず、ようやく「被害者がその責めに帰することができない事由」に当たるとして再度の申立てを認めてもらったケースがあります。

 

管轄の裁判所

申し立てる側(被害者)に近いところのほうが便利ですが、保護命令を申し立てる場合で相手(加害者)に避難先を知られたくないときには、相手方の住所地を管轄する裁判所が良いと思います。

 

申し立てる際の注意

裁判において、避難先の近くで病院に行って診断書などを提出するときには、相手方が証拠を見ることを前提に病院名をマスキングするなどの配慮が重要です。

事実婚の場合は、生活の本拠を共にしている証拠、例えば双方の住民票や公共料金の請求書の写しなどが必要になります。

また、保護命令発令までに、どれくらいの時間がかかるかという質問をよく受けます。相談者としては、家を出たときが一番危険なので即座に発令してほしいところですが、実際には2週間近くかかります。海外では緊急保護命令制度などもあるので、日本でも必要ではないかと思います。

最近少し気になるのは、保護命令の申立て件数などが減っていることです。保護命令の意義が知られていないのかなと感じています。もし必要ということであれば、いとわず申し立てていただけたらと思います。

 

ストーカー規制法

「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、本人や配偶者、親族などに、つきまといや待ち伏せ、住居や勤務先、学校など通常所在する場所の近くで見張ったり、うろついたり、押し掛けたりすること、

また、その行動を監視していると思わせるようなことを告げること」などを規制しています。

逗子ストーカー殺人事件や小金井ストーカー殺人未遂事件を受け、電子メールやSNS、ツイッターも規制されるようになりました。警察に対し、被害者から警告の申し出ができるようになり、警察は、警告した場合にはその内容と日時を、警告しなかった場合にはその旨とその理由を、書面で被害者に通知する必要があります。このようにストーカー規制法の手段も充実してきましたし、ストーカー行為の刑罰もかつてより重くなり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金、禁止命令に違反した場合には2年以下の懲役又は200万円以下の罰金が科されます。また、ストーカー行為罪は、平成28年改正前は親告罪でしたが、現在は非親告罪になっています。さらに、ストーカー行為などにかかる保護観察つき執行猶予者に関する保護観察所と警察の連携も強化されるなど、法律的な規制も徐々に充実してきています。

 

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