「起業スタートセミナー」開催レポート(第2回)


平成30年度起業スタートセミナー

第2回『気になる社会問題をビジネスにする ~エシカルというキーワードを通して~』

開催レポート

平成31年2月2日(土)13時30分~16時30分

 

第1回と同様に、たくさんのご応募をいただいた起業スタートセミナー(第2回)は、

エシカルをキーワードに社会問題をビジネスにしたジュエリーブランド、株式会社HASUNA代表の白木夏子さんを講師にお招きしました。

 

―チェックイン : ⾃⼰紹介、今⽇来た⽬的をシェアー

第2回は、各グループでの自己紹介から始まり、「今日来た目的」をメンバーでシェアしました。起業を目指している参加者の皆さんだからでしょうか、開始直後からスムーズに目的のシェアが進みました。皆さんの目がキラキラと輝いて、セミナーに対しての意気込みが伝わってくるようでした。

  

―白木さんの起業ビジネス経験―

グループ内でのシェアが終わると、次に白木さん自身の起業経験・ビジネス経験をお話しいただきました。

 

【HASUNA創業のきっかけ】

小さい頃からファッション業界に憧れ、自分で洋服を作ることが大好きだった一方、戦争経験のある祖父に、いろいろな体験談や他国の話を聞き、世界に出てみたいとも思うようになりました。学生時代は、まだジュエリーブランドを立ち上げるつもりはなく、国際協力の世界に進みたいと考えながら過ごしていました。

 

高校の進路選択で、子供の頃からの憧れだったファッションに関係する道に進もうとしたところ、両親は猛反対。結局、ファッションの道は一度断念し、海外に出ようと決意しました。日本の短大を卒業した後、祖父の後押しもあってロンドン大学に入学し、紛争や環境問題を取り上げているジャーナリストの影響もあり、貧困問題を研究しました。

様々な勉強をしましたが、やはり「現地を見なければならない!」と考え、夏休みにインドへ渡航。インドでは、現地の実情を知るために、アウトカースト(注1)の人々と寝食を共にしました。そして、その中で訪れた鉱山労働者の村でとても大きなショックを受けました。その村では子供も働いていて、大人もとても暗い表情をしており、労働環境もひどくとても言葉では言い表せない過酷な環境でした。ショックが大きすぎて、その時は何をすればいいのかさっぱりわからず、夏休みの2か月間、自分には何ができるのか、改めて考えました。例えば、私がお金を集めてこの村に寄付をしたとしても、きっと状況はあまり変わらない。インドだけじゃなくカンボジアやペルーなど、全世界にこのような人々がたくさんいる。

「この状況を変えていくためには、ビジネスを通じて変えていかなければならない」

という結論に達しました。

このような場所で取れる金や石(宝石)などの原材料を買い叩いて安く買う、というビジネスの形がおかしい、末端労働者(鉱石の採掘者、縫製工場の労働者など)に歪みが生まれるのではないか、と思いました。こういったビジネスの流れを変えるにはどうしたらいいかいろいろと考えた結果、

「自分で正しいビジネスの形を作って成功したらいろいろな人が真似をしてくれるのではないか」

と思い、HASUNAの起業に繋がっていきました。

  

【HASUNAの創業】

●起業の決意

大学を卒業、国際機関や投資ファンドなど3年間のOL生活を経て、リーマンショックを機に起業を決意。とりあえず3年挑戦しよう!と考えました。まずはビジネスモデルをどのようにするか。小さい頃から夢だったファッション業界、投資家を応援する投資ファンド、発展途上国の不動産でエコリゾートを開発など、いろいろなビジネスモデルを考える中で、“HASUNA”に至ったのは、インド鉱山(発展途上国)での経験とファッション業界への夢、その二つに近いところを選びました。あとは、3年挑戦して芽が出なかったら諦めようと思っていたので、

「挑戦に値するくらい自分が好きなもの、心から自分が好きな世界」を選びました。

●志を共にする仲間集め

働きながら一年かけて起業準備をしました。その期間は、 「なるべくたくさん人に会う」ことを心がけていました。たくさんの人に会って、このビジネスを語り、志を共にしてくれる仲間を募りました。ジュエリーデザイナー、経理担当、マーケティング担当など、友人・知人をはじめ、SNSでも募集しました。そして、月に1度「HASUNA起業会議」を開き、起業に向けて様々なディスカッションを行いました。

 

●資金調達「お金がないなら集めよう!」

2008年末に勤めていた会社を退社、2009年4月に株式会社HASUNAを創業。しかし、起業準備で資金を使い果たし、手元にはほとんどお金がない状況で、銀行に相談に行っても一蹴されてしまいました。困り果てて起業家の先輩に相談したところ、「銀行でなく、株で資金調達しなさい。あなたは今、会社の信用力もないし起業もしたばかりだけど、人間“白木夏子”の信用力はあるはずだから、自分に出資してくれる人を集めてきなさい」

と言われました。

その言葉をきっかけに多くの人を尋ねました。今はクラウドファンディングなど起業資金集めの手段は沢山あるのですが、この頃はなかったので自分の周りの方々に声をかけていきました。ビジネスのビジョンを熱く語ったり、サンプルを持っていったりして、1ヵ月で600万円を集めました。その資金を元手に海外へ買い付けに行ったり、新しいサンプルを作ったりして少しずつ前に進んでいきました。

 

●百貨店やセレクトショップへの営業「なかなか取り扱ってくれない!」

HASUNA創業時は、ちょうどリーマンショックの直後。百貨店やセレクトショップへ営業に行っても、なかなか取り扱ってもらえませんでした。それでも諦めず、何度も何度も連絡をして、やっと1店舗アポイントをとることができました。担当のバイヤーさんと話し合いを重ね、創業から半年後、やっと店頭にHASUNAの商品が並ぶことになりました。

 

●1店舗目は青山に

いろいろな苦難を乗り越え、創業2年目で青山に店舗をオープンする運びとなりましたが、オープン日が3.11東日本大震災の1週間後。オープニングパーティーの案内も送っていたものの、計画停電の発生、輸送の遅延でカーテンもない、機材もない状態でした。それでも「この日にオープンする!」と決めました。世間は自粛ムードでパーティーなんてはばかられる状況でしたが、HASUNAを応援してくれている方々が50人ほど駆けつけてくれました。

1店舗目をオープンして“やっと一歩進んだな”という感じでした。最初は、私一人で立ち上げましたが、社外から手伝ってくれる方々がたくさん来てくれました。ボランティアで関わってくれた方から始まり、作業をしてくれるアルバイトの方、2年目くらいからは社員になってもらったりして、だんだん仲間が増えていきました。

 

【最近のHASUNA】

●うつくしい、ものづくり

ものづくりを通じて、エシカル(注3)な消費⽂化を創造する

貧困問題 ・ジュエリー  =HASUNA

貧困問題、環境問題などのいろいろな問題を掲げてジュエリーを作成

LGBT  ・ ジュエリー    =Re.ing[リング]

結婚の多様性をテーマにしたジュエリーブランド         

ジュエリー業界やウェディング業界の広告について、男女の若いカップルしか映っていないことに疑問を抱いていました。ジュエリーを買いに来るお客様は若い男女だけでなく、男性同士、女性同士、再婚・再再婚の方、私は1人で生きていくわ!という女性の方、ほんとうに様々な家族、生き方があります。学生時代をイギリスで過ごし、日本の多様性のなさに軽い憤りを覚えるほどです。日本では男女での結婚しか認められなかったり、多様性がないと思う。そんな話をクリエイターの方と話をしていた中でできたジュエリーブランドです。

このように、“貧困問題”“、“LGBT” とジュエリーをかけ合わせて「HASUNA」、「Re.ing[リング]」という新しいビジネスを生み出しました。 “○○問題” と “ビジネス” をかけ合わせることによって、新しいビジネスが生まれるのではないかと考えています。

―グループワークー

白木さんより出された4つの質問について、参加者各自が考えたあとグループ内でシェアしました。

Question1: あなたにとって「社会貢献」って何ですか?

Question2: あなたのまわりの「社会貢献」に繋がる仕事・ビジネスはどんなものがありますか?

Question3: あなたの気になる社会問題は?

Question4: その社会問題の解決につなげるビジネスを考えてみましょう

  

 

グループワークは、とても活発な情報交換が行われ、有意義な時間となりました。既に、起業のビジネスプランができている方にどのようなプランを考えているか発表していただきました。

◆コーヒーが大好きで自分で豆を挽いている。住んでいる地域に障害者支援センターがあるので、そこで

ポットに入れたコーヒーを運んでもらうという仕事を通して、障害者支援ができないかなと考えています。

◆女性の労働損失が問題だと思っています。メルマガ一つで売り上げが変わるので、メルマガのテンプレートを作って渡したり、女性起業家を応援するような仕事をしたいと思っています。

起業プランが決まっている方、まだ悩んでいる方、参加者の立ち位置は様々でしたが、「起業しようとしている仲間」との出会いで、良い刺激となったように見受けられました。

 

―質疑応答―

質問① :起業準備の段階で資金がなかったとき、手伝ってくれた方への給料も渡せなかったと思いますが、どのようにされていましたか?

白木さん:昔は副業がダメだったので、ボランティアで手伝ってくれる方が多かったです。とはいえ、何も返せないのは心苦しく、とにかく感謝の気持ちを何度も何度も伝えました。あとは、起業に携わるということはなかなかできない経験ですから、それが対価かなと思っています。感謝の気持ちとともに、自信を持って“良い経験をしてもらっている!”と思うことも大事です。

質問② :SNSで人を募集したときは知人に向けて募集したのでしょうか、それとも一般公開のような形でされたのでしょうか?

白木さん:最初は知人に向けて募集をしました。その中で知り合いの知り合いを紹介してもらったりしていました。あとはピッチイベント(注4)に登壇させて頂いた際のチラシに「〇〇な人募集しています!」と書いていました。最初から不特定多数に向けて募集するのはリスクが高いかなと思います。

質問③ :株に出資してくれた方への見返りは?

白木さん:株の場合の見返りは、株の価値をあげるか、配当ですが、当時は特に見返りは約束せず、応援してください、という形でお願いしていました。初期に入っていただく投資家の方は、リターンだけを求めるのではなく、志に理解があって、快く出資して下さる方にお願いした方が良いと思います。

質問④ :広告方法はどのようにしていましたか?

白木さん:現在は雑誌などの影響力が少ないので、SNS(インスタグラムなど)が多いです。

あとは取材をしてもらったり、ブログをこまめに書くようにしています。起業の経緯やプロジェクトへのこだわりを書くと、読んでくれた方がお客さんになってくれたりしました。

 

ー参加者の声―

◆講師の白木さんの行動力に驚きましたし、勇気を頂けました。

◆夢を抱いた方々と出会えて、とてもうれしく楽しい時間でした。また、白木さんの考えもウンウンとうなずき

ながら聞けるお話が多く、すごく素敵な方だと思いました。白木さんのような方がどんどん増えていったら

社会も変わると思います。

◆ワークショップを通じて、自分が何をしたいのか気づけた。

◆ビジネスを立ち上げた際のご苦労話など本当に役立ちました。勇気を頂いたように思います。

◆ビジネスとして成功させることの難しさを知った。

◆長時間だと思ったが、あっという間でした。休憩時間もあり、同じテーブルの方との交流もできました。

(アンケートより一部抜粋)

(注1)カースト制度の外側とされる、インドのヒンドゥー教社会における被差別民。

(注2)不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す。

群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語。

(注3)「エシカル消費」消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと。

(注4)スタートアップ企業が投資家などに対して自社のサービスをプレゼンテーションすること。


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